R2-2取得時効
不動産の取得時効に関する次のアからオまでの記述のうち、判例の趣旨に照らし誤っているものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。
1 アイ 2 アウ 3 イエ 4 ウオ 5 エオ
ア 甲不動産を所有の意思なく占有していたAが死亡し、Bがその占有を相続により承継した場合には、Bは新たに甲不動産を事実上支配することによって占有を開始し、その占有に所有の意思があるとみとめられ、かつ、Bの占有開始後、所有権の時効取得に必要とされる期間その占有を継続したとしても、自己の占有のみを主張して不動産の所有権を時効取得することはできない。
×
被相続人Aの占有していた不動産につき,相続人Bが,被相続人の死亡により同人の占有を相続により承継しただけでなく,新たに当該不動産を事実上支配することによって占有を開始した場合において,
その占有が所有の意思に基づくものであるときは,被相続人Aの占有が所有の意思のないものであったとしても、
相続人Bは、独自の占有に基づく取得時効の成立を主張することができる(最判平8.11.12)。
イ Aから甲不動産を買い受けてその占有を取得したがBが、売買契約当時、甲不動産の所有者はAではなくCであり、売買によって直ちにその所有権を取得するものでないことを知っていた場合には、Bは、その後、所有権の時効取得に必要とされる期間、甲不動産を継続して占有したとしても、甲不動産の所有権を時効取得することはできない。
×
20年間,所有の意思をもって、平穏に,かつ,公然と他人の物を占有した者は,その所有権を取得する。
よって、Bは、Aから甲不動産を買い受けてその占有を取得したその後、所有権の時効取得に必要とされる期間、甲不動産を継続して占有したときは、甲不動産の所有権を時効取得することができる。
ウ 甲不動産につき賃借権を有するAがその対抗要件を具備しない間に、甲不動産に抵当権が設定されてその旨の登記がされた場合には、Aは、その後、賃借権の時効取得に必要とされる期間、甲不動産を継続的に用益したとしても、抵当権の実行により甲不動産を買い受けた者に対し、賃借権の時効取得を対抗することはできない。
○
抵当権の目的不動産につき賃借権を有する者は,当該抵当権の設定登記に先立って対抗要件を具備しなければ,当該抵当権を消滅させる競売や公売により目的不動産を買い受けた者に対し,賃借権を対抗することができないが、
抵当権の設定登記後にその目的不動産について賃借権を時効により取得した者があったとしても,異なるところはない(最判平23.1.21)。
よって、本肢のAは、抵当権の実行により甲不動産を買い受けた者に対し、賃借権の時効取得を対抗することはできない。
エ Aが甲不動産を10年間占有したことを理由として甲不動産の所有権の時効取得を主張する場合、その占有の開始の時に、Aが甲不動産を自己の所有と信じたことにつき無過失であったことは推定されない。
○
民法186 条によって「無過失」は推定されない(大判大 8.10.13)。
(占有の態様等に関する推定)
第百八十六条 占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する。
2 前後の両時点において占有をした証拠があるときは、占有は、その間継続したものと推定する。
オ 取得時効を援用する者が、時効期間の起算点を任意に選択し、時効完成の時期を早めたり遅らせたりすることは許されない。
○
起算点は,実際に占有を開始した時点に固定され,起算点を選択することはできない(最判昭 35.7.27)。