H28-22建物書式
丙山一郎と妻の丙山恵子(以下「丙山ら」という。)は,丙山恵子の父親である乙山和雄が一人で居住している家屋番号5番27の建物(以下「既存建物」という。)の敷地内に,乙山和雄の今後の介護等を考え,丙山らが居住するための新館(以下,単に「新館」という。)の建築工事を計画した。
現地は丘陵を背にした勾配のある土地であるが,現在更地となっている隣地所有者から建築資材の運び入れや工事車両の駐車の承諾も得られて着工の運びとなり,平成28年7月21日に無事工事の完了と引渡しを受けた。
土地家屋調査士民事花子は,丙山ら及び乙山和雄から,新館を建築したことに伴う登記に関する相談を受け,【事実関係】のとおり事情を聴取し,必要となる表示に関する登記の申請手続についての代理並びに当該登記について必要な調査及び測量の依頼を受けて現地を調査・測量し,【登記記録等の内容】のとおり登記記録等を調査して,平成 28年8月10日,既存建物について建物の表題部の変更の登記を申請した。
以上に基づき,次の問1から問3までに答えなさい。
①前文、調査図:「申請人」、「対象建物」、「申請する登記」を読み取る。
・申請人 :西山一郎と内山恵子及び乙山和雄から依頼。申請人の記載はない。
・対象建物 :家屋番号5番 27 の敷地内に,平成28年7月21日に新館を建築
・申請する登記 :新館を建築したことに伴う登記
問1 別紙第 22 問答案用紙の第1欄の空欄を埋めて,土地家屋調査士民事花子が平成28 年8月10日に申請した登記の申請書を完成させなさい。
③ 問:先に問を読み、別紙の 「○:重要事項」を知る。まだ「×:理解できない部分」は読み飛ばす。
問1:登記申請書 :×平成 28年 8月 10日に申請した登記申請書
問2 土地家屋調査士民事花子が問1の登記を申請した理由を,「構造上の独立性」,「利用上の独立性」及び「一不動産一登記記録の原則」の語句を使用して,別紙第22問答案用紙の第2欄に記載しなさい。
問2:当該登記を申請した理由 :×
問3 別紙第22問答案用紙の第3欄を用いて,土地家屋調査士民事花子が平成 28 年8月10日に申請した登記の申請書に添付する建物図面及び各階平面図を完成させなさい。
問3:建物図面及び各階平面図の作図 :×平成 28 年 8 月 10 日に申請した登記に添付
各階平面図に求積表の記載が不要である旨の記述がない→床面積と求積表も記載
(注)
1 本問における行為は全て適法に行われており,法律上必要な書類は全て適法に作成されているものとする。
2 登記の申請は,書面申請の方法によってするものとする。
3 建物図面は 500 分の1の縮尺により,各階平面図は 250 分の1の縮尺により,それぞれ作成すること。
4 訂正,加入又は削除をしたときは,訂正は訂正すべき字句に線を引き,近接箇所に訂正後の字句を記載し,加入は加入する部分を明示して行い,削除は削除すべき字句に線を引いて,訂正,加入又は削除をしたことが明確に分かるように記載すること。
②注意事項:「×例年同様な事項」、「○例外的な事項」をチェック。
・注1:適法であり書類が揃っている:×
・注2:書面申請:×
・注3:建物図面 500 分の 1 ,各階平面図 250 分の 1 :×
・注4:訂正方法:×
【事実関係】
1 丙山一郎は乙山和雄の承諾を得た上で,株式会社橋本工務店代表取締役橋本幸夫との間で建築工事の請負契約を締結して,渡り廊下を含む新館の建築工事を行った。
2 新館と既存建物とは渡り廊下により接続し,新館に勝手口等は設けられておらず,既存建物と新館の地盤面の高低差から,道路等敷地外への出入りについては既存建物の2階の居間を通じて既存建物の階の玄関を使用せざるを得ない状態となっている。
2
④別紙:③問に答える「○:重要事項」を読み取る。
(4) 別紙 別紙1:事実関係
・渡り廊下を含む新館の工事→全体を一棟の建物として登記→「渡廊下付き3階建」と表示
・新館に勝手口等は設けられておらず,既存建物を通じなければ新館に出入することができない
→利用上の独立性を有していない
→区分所有することはできない
→新館は区分建物の専有部分とはならず,既存建物の増築部とする
3 新館の建築費用と既存建物との渡り廊下による接続加工の工事費用については,丙山一郎が資金を全額拠出した。
3
渡り廊下を含む新館は丙山一郎が資金を拠出
→既登記の非区分建物に接続して建物を新築し、全体として一棟の区分建物が生じた場合,非区分建物から区分建物への変更登記と,増築部分の区分建物の表題登記を一括申請するが、新館は区分建物の要件を満たしていないため、既存建物の増築とする
→建物表題部変更登記
→申請人は既存建物の所有者である乙山和雄(新館の資金を拠出した丙山一郎は申請人とはならない)
4 建築工事中も乙山和雄は住所を移転することなく既存建物に居住し続け,住所は既存建物の登記記録に記録されたものから変動がない。
4, 5
乙山和雄の住所変更は不要
5 丙山らは,D市E町一丁目番号に住所を有するが,平成 28 年8月末までに新館に転居する予定である。
4, 5
乙山和雄の住所変更は不要
6 既存建物及び新館の調査の結果
⑴ 既存建物及び新館の構成材料は柱・梁ともに軽量鉄骨を使用し,屋根材はガルバリウム鋼板を使用している。なお,既存建物については,新築時から今回に至るまで増改築を行った形跡はなく,登記所に備え付けられている図面と現況は整合している。
⑵ 渡り廊下部分は構造・屋根材とも新館と同様である。基礎により定着し,周壁を有して外気と分断されている。なお,渡り廊下の築造時期は,新館の完成と同時期である。
6(1),(2)
既存建物及び新館の構成材料は軽量鉄骨であり,屋根材はガルバリウム鋼板
→「合金メッキ鋼板ぶき」と表示
既存建物に増改築を行った形跡がないことから,構造変更はない
新館には渡り廊下が付いているため、「渡廊下付き」へ構造変更
⑶ 既存建物と渡り廊下部分とは木製のドアで仕切られている。
6(3)
既存建物と渡り廊下部分が木製のドアで仕切られている
→構造上の独立性はあるが、利用上の独立性はない
→区分建物とはならない
⑷ 軽量鉄骨柱は両側が被覆されており,既存建物の柱と新館の柱の太さは,同一である。
6(4)
柱の両面が被覆されている
→床面積は柱の中心線で囲まれた部分の水平投影面積
7 丙山一郎の所有権に関する登記手続は,土地家屋調査士民事花子が平成 28 年8月10日にした申請に係る登記が完了した後,司法書士に依頼して行う予定である。
7
丙山一郎の所有権に関する登記は後日行う
→表示に関する登記後も、増築後の建物(既存建物及び新館)は乙山和雄の単有
(→増築後の建物につき所有権一部移転の登記か)
8 後記〔見取図〕及び〔新館各階平面図〕は,現地調査を行った際に,簡易に作成したものである。
⑴ 距離の単位はメートルである。
⑵ 建物の測定値は,軽量鉄骨の柱の中心からの距離である。
⑶ 建物の隅角部は全て直角である。
⑷ 建物の位置を特定する数値は境界から建物外壁までの距離である。
⑸ 階層の表記は既存建物・新館のそれぞれの地盤面を基準にしている。
⑹ 〔新館各階平面図〕の○は各階の重なる部分を示す。
8 見取図
・⑵ 建物の測定値は,軽量鉄骨の柱の中心からの距離
→床面積の計算は、この数値を使用
・南側立面図より、既存建物と新館は傾斜地にある建物
→既存建物の地表面にある最低階が全体の1階。既存建物の2階部分と渡り廊下,新館1階部分が、全体の2階。新館2階部分が全体の3階となる。
【登記記録等の内容】
1 既存建物の敷地の登記記録の抜粋
(表題部)
所 在 A市B町二丁目
地 番 5番 27
地 目 宅地
地 積 298.03 m2
(権利部)
甲区 2番 A市B町二丁目番10号 乙山和雄
乙区 登記事項なし
別紙2:資料調査結果 1 敷地の登記記録
新館も当該敷地上に建築
→所在の変更はない
2 既存建物の登記記録の抜粋
(表題部)
所 在 A市B町二丁目番地 27
家屋番号 5番 27
種 類 居宅
構 造 軽量鉄骨造合金メッキ鋼板ぶき階建
床 面 積 1階 89.10 m2 2階 64.80 m2
原 因 平成 17 年5月1日新築
(権利部)
甲区 1番 A市B町二丁目5番10号 乙山和雄
乙区 1番 記載省略
2 本件建物の登記記録
渡り廊下と新館を増築=2階,3階を増築
→構造・床面積が変更
3 既存建物の各階平面図の抜粋
答案用紙
解説
1.問題把握
手順①~④により問題把握が完了。
①前文、調査図:「申請人」「対象土地」「申請する登記」を読み取る。
②注意事項:「×例年同様な事項」、「○例外的な事項」をチェック。
③問:先に問を読み、別紙の 「○:重要事項」を知る。この時点で「×:理解できない部分」は読み飛ばす。
④別紙:③問に答える「○:重要事項」を読み取る。
・申請する登記:
新館の新築は、(区分建物の新築ではなく)既存建物の増築
→既存建物を,渡り廊下付き3階建に変更する「建物表題部変更登記」
・申請人:既存建物の所有権登記名義人である乙山和雄
2.各階平面図の作図
家屋番号5番 27の建物の建物表題部変更登記を申請
→新館増築後の各階平面図と建物図面を作図
・作図メモ:建物の形状の左上を原点としたX座標とY座標の累計の数値をメモ
・記載事項:床面積、求積表を記載。求積表の配置も考慮し,各階平面図をできるだけ左側に作図。
・床面積の計算:柱の中心線で囲まれた部分の水平投影面積を計算
3.建物図面の作図
建物(一階部分のみ)の形状を書く→配置図より、土地の形状を書く
4.登記申請書
登記の目的 :建物表題部変更登記
添付情報 :建物図面・各階平面図・所有権証明書・代理権限証書
申請人 :A市B町二丁目5番10号 乙山和雄
建物の表示 :
・①行目:従前の登記記録から,所在、家屋番号,種類,構造,床面積を転写
・②行目:変更後の構造と床面積を記載
変更後の構造「軽量鉄骨造合金メッキ鋼板ぶき渡廊下付き3階建」
登記原因及びその日付:渡り廊下と新館の工事が完了した日付「②③ 平成28年7月21日構造変更,増築」
5.問2(既存建物の建物表題部変更登記をした理由)
既存建物の非区分建物から区分建物への変更登記と、増築部分の区分建物の表題登記を一括申請するのではなく、既存建物の建物表題部変更登記をした理由を述べる。
新館が区分建物の要件を満たさない→既存建物の建物表題部変更登記とする理由を、「構造上の独立性」,「利用上の独立性」及び「一不動産一登記記録の原則」の語句を使用して説明する。
→「新館は、構造上の独立性を有しているが、他の専有部分を通らないと外部と出入できないことから利用上の独立性を有していないため、区分建物の要件を満たさない。よって、一不動産一登記記録の原則により、既存建物の増築による建物表題部変更登記をする。」
解答例