H23-2時効の援用
時効の援用に関する次のアからオまでの記述のうち、判例の趣旨に照らし誤っているものの組合せは、後記1から5までのうちどれか。
1 アイ 2 アオ 3 イエ 4 ウエ 5 ウオ
ア AのBに対する売買代金債務を連帯保証したCは、Aの売買代金債務について消滅時効が完成した後にBから連帯保証債務の履行を求められた場合には、Aの売買代金債務についての消滅時効が完成する前に自らの連帯保証債務を承認していたときであっても、Aの売買代金債務についての消滅時効を援用してBからの請求を拒むことができる。
正しい
連帯保証には、連帯債務の絶対効に関する規定が準用され、(民法458条)
更改,相殺,混同等の効力は、主たる債務者にも及ぶが、
連帯保証人はあくまで保証債務を負うにすぎず,主債務者との関係において「負担部分」がなく、「負担部分」があることを前提とした規定については準用の余地がないとされる。
よって、連帯保証債務について債務承認による時効の中断がされても、主たる債務の消滅時効には影響せず、
連帯保証人は、主たる債務の消滅時効を援用して、債務者からの請求を拒むことができる。
民法458条(連帯保証人について生じた事由の効力)
第四百五十八条 第四百三十八条、第四百三十九条第一項、第四百四十条及び第四百四十一条の規定は、主たる債務者と連帯して債務を負担する保証人について生じた事由について準用する。
イ Aを抵当権者として先順位の抵当権が設定されている不動産の後順位の抵当権者であるBは、Aの先順位の抵当権の被担保債権について消滅時効が完成した場合であっても、その消滅時効を援用することができない。
正しい
時効を援用できる当事者とは、消滅時効の場合,保証人, 物上保証人,第三取得者その他権利の消滅について直接正当な利益を有する者に限定され、(民法145条)
時効により間接に利益を受ける者は除外されるため、
本肢のような、先の順位の抵当権の被担保債権が消滅して抵当権の順位が上がり、配当が増加することで、間接に利益を受けることが期待される後順位抵当権者は、時効を援用することができない。(最判平11.10.21)
ウ 甲土地上に乙建物を所有しているAから乙建物を賃借しているBが、甲土地の所有者であるCから、所有権に基づき乙建物から退去して甲土地を明け渡すよう求められた場合において、Aの占有による甲土地の所有権の取得時効が完成しているときは、Bは、その取得時効を援用してCからの請求を拒むことができる。
誤り
時効を援用できる当事者とは、取得時効の場合、権利を直接取得できる者であり、(大判昭10.12.24)
本肢の場合、甲土地上の乙建物賃借人Bは、Aから建物を賃借しているだけで、甲土地の取得時効の完成により直接に利益を受ける者ではないため、
Bは、Aの占有による甲土地の所有権の取得時効を援用することができない(最判昭44.7.15)。
オ Aに対する貸金債務を承認したBが、Aから貸金返還請求を受けた場合には、Bは、その承認の際に、その貸金債務について消滅時効が完成していることを知らなかったときであっても、貸金債務の消滅時効を援用してAからの請求を拒むことができない。
正しい
消滅時効完成後に債務の承認をした債権者は、時効の完成を知らなかった場合でも、時効を援用することができない。
債務者Bは、消滅時効完成後に債務の承認をして支払の意思を債権者Aに示した以上、それに相反することとなる消滅時効の援用をして、Aからの貸金返還請求を拒むことはできない。(民法152条1項、最判昭41.4.20)
民法152条(承認による時効の更新)
第百五十二条 時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める。
2 前項の承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力の制限を受けていないこと又は権限があることを要しない。