H23-1意思表示
意思表示に関する次のアからオまでの記述のうち、判例の趣旨に照らし正しいものの組合せは、後記1から5までのうちどれか。
1 アイ 2 アウ 3 イオ 4 ウエ 5 エオ
ア Aが、Bに強迫されて、A所有の甲土地をBに売り渡して所有権の移転の登記をし、さらに、Bが事情を知らないCに甲土地を転売して所有権の移転の登記をした場合には、Aがその後にAB間の売買契約を強迫を理由として取り消したとしても、Aは、Cに対して甲土地の所有権を主張することはできない。
誤り
強迫による意思表示は、取り消すことができる(民法96条1項)。
強迫による意思表示の取消しは、詐欺の場合と異なり、第三者保護規定がなく、
取消し前の善意の第三者(=C)にも対抗することができる(民法96条3項の反対解釈)。
よって、Aは、AB間の売買契約を強迫を理由として取り消し、善意の第三者Cに対して甲土地の所有権を主張することができる。
イ AとBが通謀して、A所有の甲土地をBに仮装譲渡して所有権の移転の登記をし、さらに、Bが仮装譲渡の事実を知らないCに甲土地を転売し、その後、Cが仮装譲渡の事実を知っているDに甲土地を転売した場合には、Aは、Dに対して甲土地の所有権を主張することはできない。
正しい
通謀虚偽表示(相手方と通じてした虚偽の意思表示)の無効は、
これを虚偽表示後に登場した善意の第三者に対抗することができない(民法94条2項)。
通謀虚偽表示につき、いちど善意の第三者Cが現れれば、その後の転得者Dは、たとえ悪意であっても、善意の第三者Cから権利を取得するとされる(絶対的構成)。(最判昭 47.5.27)
よって、Dが悪意でもCが善意ならば、Aは、虚偽表示による無効をもってDに対抗することはできない。
ウ Aが、A所有の甲土地を売り渡すつもりで、錯誤によりA所有の乙土地をBに対して売り渡した場合には、Aに重大な過失があるときであっても、Bは、当該売買契約の無効を主張することができる。
正しい
意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、取り消すことができるが、(民法95条1項)
要素の錯誤があっても、表意者(=A)に重過失がある場合、表意者は取消しの主張をすることができない(民法95条3項)。
錯誤者に重大な過失がなく,錯誤者自身が取消しを主張できるときでも、錯誤者自身が取消しを主張しないのであれば、相手方や第三者は、錯誤による取消しを主張することができない(最判昭40.9.10)。
よって、本肢の場合、表意者Aは自ら無効を主張できず、相手方Bも無効を主張することができない。
民法95条(錯誤)
第九十五条 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
2 前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。
3 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第一項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
4 第一項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
オ Aが、A所有の甲土地を売却するに当たり、Bにその代理権を与えていたところ、Bが、売買代金を着服する意図で、甲土地をCに売却した場合において、Cが、Bの着服の意図を知らなくても、その意図を知ることができたときは、Aは、当該売買契約の無効を主張することができる。
正しい
代理人が自己または第三者の利益を図ると目的で、客観的には顕名により代理の形式に則って、本来の権限の範囲内の行為をすることを代理人の権限濫用という。
代理人の権限濫用の場合、代理行為の効果は本人に帰属するが、
代理人が自己または第三者の利益を図る目的について、相手方が悪意または有過失であれば、無権代理行為とみなされ、その効果は本人に帰属しない。(民法107条)
よって、Cが、Bの着服の意図を知らなくても、その意図を知ることができたときは、(Bの無権代理行為とみなされ、)Aは、当該売買契約の無効を主張することができる。